ストリートギャング・太平洋諸島
 
 
 
 
 
 
 
 
 
・目次
 ・始めに
 ・ポリネシア
  ・サモア
   ・アメリカ本土
  ・トンガ
   ・トンガ系アメリカ人
 ・ミクロネシア
  ・グアム
   ・アメリカ本土
  ・サイパン
 ・メラネシア
  ・フィジー
  ・パプアニューギニア
   ・「ラスコル」・ギャング
 ・ギャングリスト
 ・参考文献
 
 
 
 
 
 
 
 
・始めに
 本文で扱う「太平洋諸島」はハワイ、サモア、トンガ、タヒチ、ニュージーランドなどを含むポリネシア、マリアナ諸島とキリバスを含むミクロネシア、ニューギニアやフィジーを含むメラネシアの3地域からなっており、その太平洋諸島に住む多様な民族の総称がアイランダーズである。
 歴史的・文化的に多様な地域であり、人口の希薄さや情報の少なさもあって一地域ごとに詳細なことを書くのは困難だったので、本文ではニュージーランドとハワイを除く地域についてまとめて概観する。
 
 
 
 
 
 
・ポリネシア
 20世紀後半に至るまでサモア人やトンガ人はギャング文化を持たなかったが、その後彼らがシドニー、ニュージーランドのサウス・オークランド、LAなどに移住すると、その人脈を通じて現代ストリートギャングも持ち込まれてきた。
 特にアメリカからは、多くのアメリカ国籍を持たないギャングが犯罪者送還によって送り返されて来ており、一方ニュージーランドからは、おそらくはより良い生育環境を望んだ親たちから故郷に送られる青少年が多く、より年長のアメリカ帰りのものに影響されてギャングに入るものが多いようである。
 
 
 
・サモア
 人口約20万人のサモアには、アメリカ移民の人脈により、1980年代~90年代からストリートギャングが存在してきた。1999年にはサンズ・オブ・サモアのメンバーが、父親の女性問題担当大臣リアファ・ヴィタレの依頼によって、公共労働大臣ルアガラウ・レヴァウラ・カムーを殺害したとして逮捕されている。
 
・アメリカ本土
 1976年にはLA・ロングビーチでサンズ・オブ・サモアが結成され、後にクリップスへと外様的地位で参加している。
 おそらくは1980年代前半に、コンプトン外で初のパイルズ(ブラッズ)の1つであるカーソン・ウエストサイド・パイルやサモアン・ウォーリアー・バウンティー・ハンターズも結成されている。
 
 サモア人ギャングはシアトルやサンディエゴにも手を伸ばし、サンクエンティンで結成され、その後ハワイへと拡張したUSO・ファミリーと対抗勢力ラ・ファミリア、アラスカのハモ・トライブ・クリップスなども活動してきている。
 
 1992年にはJean-Pierre Gorinのサンズ・オブ・サモアについてのドキュメンタリー「My Crasy Life」が公開されている。
 
 
 
 
 
・トンガ
 人口10万人のトンガ王国では、ストリートギャング文化はやはりトンガ系アメリカ人によって輸入されてきた。
 
 2006年の首都ヌクアロファでの暴動では、ストリートギャングが主に商業地区を荒らし、ニュージーランドドルで8600万ドルもの損害が出たが、逮捕された1100名のうち半分以上が、アメリカから送還されたトンガン・クリップ・ギャングの関係者であった。彼らは市民権を持ってはいなくともアメリカ生まれのアメリカ育ちであったが、9・11事件後の法規制の強化によって、今まで行ったこともないトンガへと「送り返されてきた」という。
 
 2017年のthediplomat.com(ニューズウィーク日本版に訳あり)は、中国人犯罪者の増加を報道している。
 
  
・トンガ系アメリカ人
 サモア人と同じく、トンガ人は1970年代からサウスLAやロングビーチのような貧困街へと移住し、現地の黒人に影響されてギャングを結成してきた。
 イングルウッドのレイモンド・アヴェニュー・クリップスの分派として結成されたトンガン・クリップ・ギャング/TCGを筆頭に、トンガン・スタイル・ギャング、トンガン・バッド・ボーイズ、トンガン・マフィア、トンガン・フォー・ライフなどのギャングが存在したという。
 最大勢力のTCGはシアトル、ハワイ、さらには信仰するモルモン教の縁を伝ってユタにも進出し、トンガン・クリップ・レギュレーターズなどが有力勢力となっている。
 
 また法政大学の山本真鳥教授によると、ベイエリアの東パロアルト市で「赤いバンダナのトンガ人若者のギャング」が活動していたという。残念ながらギャング名は不明だが、赤をシンボルカラーとするギャングとしては、まずありそうなのはアイランダーズに親和的なブラッズ、次に現地に存在するトンガ系ギャングであるチェック・モブなどの独自クルー、最後にラテン系以外はあまり名乗らないノルテニョスだろう。
 
 近年はこうしたアメリカのギャングが犯罪者移送でトンガ王国に送り返され、故国で問題を起こすことが増えてきた。しかし2017年時点でトンガ警察はギャングについて何も知らず、「TCG」のタギングが何を意味するのかさえ知らなかったという話もある。
 
 
 
 
 
 
・ミクロネシア
・グアム
 ミクロネシア最大の島であるグアムは、2016年時点で約16万人の人口を持ち、その内訳は、チャモロ系37パーセント、フィリピン系26パーセント、白人7パーセント、チュウキーズ系7パーセントとなっている。
 
 アメリカ領であるためにアメリカ本土との行き来は比較的容易であり、1980~90年代のクリップス/ブラッズ拡張期には米軍基地からの何らかの影響もあったと思われる。
 詳細は不明ながらも、グラフィティ、器物損壊、タギングによる縄張り争いなどのギャング・ヴァンダリズムが行われていたようである。グアム警察は2006年に対ギャング予算として5万ドルを獲得している。
 
 2010年代には北東部のイイゴ村にイイゴ・ブラッズが存在し、違法な闘犬などを行っていた。2011年にはハーモンでギャング関係の動機で3名が殺害されている。
 
 
・アメリカ本土
 アメリカ本土のグアム系ギャングとしては、LA・ロングビーチのウエストサイド・アイランダーズが最も有名であり、レアル・ピノイ・ブラッズやサンズ・オブ・サモアなどと抗争を繰り広げていた。2010年にはサルザナ・ギャングにメンバーの1人を殺害されている。
 
 そのほかLAには、全米犯罪レファレンス・サーヴィス(NCJRS)によると、バルカダン・グアムというグアム出身のフィリピン人による20名程度の組織がある(あった)という。またワシントン州スノホミッシュ郡エヴェレット市に、ブレークダンス・グループとしてグアムで結成されたトレス・ニッショ・ボーイズの存在が確認されている。
 
 ベイエリア・ヘイワード市では1988年ごろにDGF/デンジャラス・グアマニアン・ファミリーが結成され、その後1990年代前半に赤をシンボルカラーと定めると、DGF・ブラッズとDGF(ドント・ギブ・ア・ファック)・ノルテニョス-14に分裂したという。
 
 1980~90年代のサンディエゴでは、インセーン・グアマニアン・ファミリー/IGFが活動していたが、時期不明ながらクドゥク(チャモロ語で狂気)・ブラッズと改名、アジア人ブラッズが組んでいたイーストサイド・ファミリー連合へと加入したという。おそらくはそういった人脈を伝ってのことと思われるが、2014年には南カリフォルニアのみならず、ハワイやグアムなどの太平洋地区までも巻き込んだ麻薬密輸網が摘発されている。
 
 日本人ヤクザ幹部、吉村光男氏のアメリカ本土の刑務所での服役生活を描いた山平重樹「連邦刑務所から生還した男 FBI囮捜査と日本ヤクザ」では、グアムで活動する「パシフィック・マフィア」の名前として、ジョン・ケインとフランク・ジョセフの名前があげられている。残念ながら両者の詳細は不明である。
 
 
 
・サイパン
 人口4万8千程度の島であるが、2000年ごろには中国人ギャングの活動が目立っていたという。日本とも縁の深い土地であり、1987年に山一抗争で、一和会白神組の白神英雄が何者かによって射殺されている。
 
 
 
 
 
 
・メラネシア
・フィジー
 2015年には、1970年代にダウード・イブラヒムがムンバイで結成した麻薬密輸組織、D・カンパニーの関係者である「クホタ・シャキール」ことシャキール・シャイクの一味が活動していたことが報道されている。
 
 
 
・パプアニューギニア
・ラスコル・ギャング
 1975年にオーストラリアから独立したパプアニューギニア、その首都ポート・モレスビーでは、すでに1950年代にケレマ・メン族のデヴィルズ・ディサイプルズなどが活動していた。
 1970年代からは都市化と失業率の増加に従ってスラムが出現し、そこを根城に「ラスコル」・ギャングが出現している。ラスコルはラスカル(ごろつき)の転訛である。

 15歳から25歳までの少年たちを中心とする彼らは、ファーザーもしくはビッグ・マンと呼ばれる指導者に従い、アメリカの科学者モウリーン・ダフィーとスコット・ジリグからは、その行動規範「ラスコリズム」には、殺人と強姦に明け暮れていたかつての部族の伝統を受け継いだ面があるとも指摘されている。
 
 当初は小規模な強盗程度しかしていなかったが、次第にオーストラリアへのマリファナ密輸の手を広げていき、ボートへのハイジャック行為にも手を出すようになっていく。マリファナ・ブランドのPNG・ゴールドはオーストラリア北部では有名だったという。
 パプアニューギニア自体が東南アジアから北米やオーストラリアに向かう麻薬密輸の重要ハブ地域であり、近年の中国移民の増加に伴って、三合会(団体名は不明)との取引も活発化してきた。
 
 しかし警察の過酷な取り締まりは、ギャング人生に嫌気のさした者たちによる「集団改心」も多く生み、1992年にはGGB・マフィアの70名がバディリ警察署で堅気になることを表明している。グループの代表によると、20年の間に32名が警察によって殺されていたという。
 
 1990年代中盤からは、ボマイ、カボニ、マフィアス、ブリゲード・585が4大ギャング連合として確固とした縄張りをもって君臨しており、105s、KGK、キップス・カボニ(表記によっては「コボニ」、悪魔の意)等が有力な組織である。より小さなグループには、ブラッド、ダーク・フォース、アル・カポネ、メルボルン・マーダラーズなどが存在する。
 ギャング連合がそれぞれに部族的なつながりで固まっているのに対して、小ギャングはより都市環境の多様性を反映する傾向があるという。
 
 ポート・モレスビーは2004年には、パキスタンのカラチやナイジェリアのラゴスを抑えて、「世界で最も危険な首都」に選ばれている。
 
 
 
 
 
 
 
・ギャングリスト
・サモア系
 サンズ・オブ・サモア・クリップス
 ファム・バム・クリップス
 クレイジー・アス・サモアン・ファミリー・ギャングスター・クリップス/KASFGC
 カーソン・ウエストサイド・パイル

・トンガ系
 トンガン・クリップ・ギャング
 トンガン・クリップ・レギュレーターズ

・ラスコルズ
 ボマイ
 コボニ
 マフィアス
 ブリゲード・585
 
 
 
 
 
「ストリートギャング・太平洋諸島」参考文献
・「始めに」
太平洋諸島
https://en.wikipedia.org/wiki/Pacific_Islands
 
・「サモア」
サモア
https://en.wikipedia.org/wiki/Samoa
サンズ・オブ・サモア
https://en.wikipedia.org/wiki/Sons_of_Samoa
カーソン・ウエストサイド・パイル

West Side Piru (Carson)


サモア系ギャングについて
http://www.criminaljusticesolutionsham.org/pacific-islanders.html
ロングビーチのポリネシアン・ギャング
http://www.streetgangs.com/billboard/viewtopic.php?f=142&t=55901&p=8759333&hilit=tonga#p8759333
サモア対トンガの200年にわたるライバル関係
http://www.streetgangs.com/billboard/viewtopic.php?f=22&t=13526&hilit=tonga
サモアン・ウォーリアー・バウンティー・ハンターズ
http://www.streetgangs.com/billboard/viewtopic.php?t=2390
・「トンガ」
トンガ
https://en.wikipedia.org/wiki/Tonga
トンガの首都ヌクアロファの暴動とサモアの大臣殺害の詳細
https://web.archive.org/web/20070811074811/http://203.97.34.63/tonga36.htm
トンガン・クリップ・ギャング
https://en.wikipedia.org/wiki/Tongan_Crip_Gang

Tonga Crip Gang


Helen Morton Lee「Tongans Overseas: Between Two Shores」167ページ
「アイランダー・ギャングとその文化」主にユタのTCGについて

クリックして149221NCJRS.pdfにアクセス

Gangland「From Heaven to Hell」ユタのTCGについて
NZのトンガ人ギャングについて
https://www.nzherald.co.nz/nz/news/article.cfm?c_id=1&objectid=10458400
「トンガ警察は「TCG」のタギング~」耳を疑うような話である
http://www.pireport.org/articles/2017/04/17/nevada-sheriff-visits-tonga-discuss-gang-problems
「トンガで跋扈する中国のヒットマン」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/06/post-7751.php
元記事
https://thediplomat.com/2017/04/are-there-chinese-hitmen-in-the-kingdom-of-tonga/
山本真鳥「多文化状況下のポリネシア文化」
「ホノルルでのサモア人ギャング対フィリピン人ギャングの抗争は有名」とあるが、どの程度知られた話なのだろうか
http://www.t.hosei.ac.jp/~matoriy/paper/tamura.html
チェック・モブ

E. Palo Alto gang gone; others rush in to fill void


イースト・パロ・アルトのアイランダー・ギャング
http://www.topix.com/forum/city/east-palo-alto-ca/TD4EUERF0UMKDA8T8/what-da-different-of-tongan-gang
・「グアム」
グアム
https://en.wikipedia.org/wiki/Guam
イイゴ
https://en.wikipedia.org/wiki/Yigo,_Guam
イイゴ・ブラッズの闘犬
http://www.kuam.com/story/23522076/2013/09/Wednesday/gain-outraged-at-gang-dogfighting-allegations
メンバー写真あり。展開してしまうのでhを抜いた
ttp://guamblog.tumblr.com/post/61930268043/danger-in-our-midst
5万ドルの対ギャング予算
http://www.kuam.com/story/11065619/guam-police-get-federal-help-to-fight-gangs
詳細不明ながらギャング・ヴァンダリズムについてのニュース映像
ttps://www.youtube.com/watch?v=9Uzucav9aIo
ハーモンでギャング関係の動機で3名が殺害
http://www.kuam.com/story/15445204/2011/09/Monday/magistrates-complaint-provides-details-to-triple-homicide
・アメリカ本土
「グアム人?」
http://www.streetgangs.com/billboard/viewtopic.php?t=8198
1980年代終盤ロングビーチのアイランダーズ系ギャングについての回想
https://www.wattpad.com/141766942-in-the-beginnings-late-80s/page/2
ウエストサイド・アイランダーズ
http://www.streetgangs.com/billboard/viewtopic.php?f=142&t=43863&p=8711101&hilit=westside+islanders#p8711101
サルザナ・ギャングにメンバーの1人を殺害
https://www.tapatalk.com/groups/pinoyog/sarzana-slaughters-ws-islander-t1603.html
グレンデール市警のギャングについての報告書。バルカダン・グアムについて記述あり

クリックして148396NCJRS.pdfにアクセス

トレス・ニッショ・ボーイズ

クリックしてGang%20Awareness%20Guide.pdfにアクセス

イーストサイド・ファミリー連合
https://www.urbandictionary.com/define.php?term=AIB
2014年麻薬密輸業者を逮捕
https://www.justice.gov/usao-sdca/pr/officials-take-down-gang-affiliated-drug-traffickers-take-dozens-guns-street-0
上記とは別物。2016年カラバン、ステートサイド・アイランダーズなどを含むサンディエゴの10のギャングに関係する麻薬密輸業者を逮捕
https://www.justice.gov/usao-sdca/pr/officials-take-down-gang-affiliated-drug-traffickers-remove-methamphetamine-heroin-and
サンディエゴ・ギャング一覧表
https://www.monderlaw.com/news/333-what-to-expect-for-local-street-gangs-in-officer-shootings-in-san-diego
同じくギャング一覧表だが、こちらの方が詳しい
http://hiphopdatabase.wikia.com/wiki/San_Diego,_California
「SOUTH HAYWARD HOODFELLAS D.G.F.」初期メンバーのTheProsperityMogul氏がDGFの歴史について語っている。
ttps://www.youtube.com/watch?v=83LPAK-sA6w
結成当初DGFはデンジャラス・グアマニアン・ファミリーの意味だったという
http://www.streetgangs.com/billboard/viewtopic.php?t=2830
・「サイパン」
https://en.wikipedia.org/wiki/Saipan
ヤクザと太平洋諸島の関係についてはデヴィッド・カプラン「ヤクザ」が詳しい
「2000年ごろには中国人ギャング」
http://www.pireport.org/articles/2000/08/21/asian-gangs-cause-concern-cnmi
・「メラネシア」
・「フィジー」
D・カンパニー
https://en.wikipedia.org/wiki/D-Company
インド・マフィアの暗闘

Indian Gangsters Were Here: Times Of India


・「パプアニューギニア」
ラスコル・ギャング
https://en.wikipedia.org/wiki/Raskol_gangs
2004年の記事
https://www.theguardian.com/world/2004/sep/22/population.davidfickling
2012年の記事

Valery Timoshenko – Raskol-Gangs оr New «Sandpit Generals»


キップス・カボニのメンバー写真
https://www.vice.com/en_us/article/ex5mkw/port-moresbys-little-raskols
「オセアニアのギャング」
https://web.archive.org/web/20181027080553/http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:wCZb3Tq0sZoJ:cominganarchy.com/2007/07/16/transnational-crime-and-street-gangs-in-oceania/+&cd=14&hl=ja&ct=clnk&gl=jp
Stephen Dupont「RASKOLS. The gangs of. Port Moresby」からの抜粋

クリックしてraskolspreview.pdfにアクセス

Maureen P. Duffy、 Scott Edward Gillig 「Teen Gangs: A Global View」160ページ
Kayleen Hazlehurst、 Cameron Hazlehurst「Gangs and Youth Subcultures: International Explorations」
「集団改心」の例が挙げられている
・「ギャングリスト」
独立系サモアギャング
http://www.streetgangs.com/billboard/viewtopic.php?t=2491
ロングビーチのポリネシアン・ギャング
http://www.streetgangs.com/billboard/viewtopic.php?f=142&t=55901&p=8765407&hilit=guamanian#p8765407