ストリートギャング・デンヴァー/コロラド
 
 
 
 
 
 
 
・概要
・ギャング一覧
・黒人系
 ・クリップスの「侵略」
 ・エリート・エイト
・ラテン系
 ・ノースサイド・マフィア
 ・GKI
・タギング・クルー
 ・タグバンガーの誕生
 ・デンヴァーにて
 ・TKO
 ・タギング戦争
 ・タギング用語集
・白人
 ・211・クルー
  ・クレメンツ殺害
・アジア系
 
 
 
 
 
・概要
 米国南西部大平原地帯に位置するコロラド州は550万人の人口を持っており、その州都デンヴァーは標高1マイル(約1600メートル)の高さに位置するためにマイル・ハイ・シティの愛称を持つ、約76万の都市人口と300万人の都市圏人口を抱える州最大の都市である。

 デンヴァーはまた東西に走る70号線と南北に走る25号線の2つの州幹線道路が交わる交通の要所でもあり、主にハリスコ・カルテルが南から送る麻薬の大発着地にもなってきた。
 2010年時点での人口構成はおおよそ白人53パーセント、ラテン系31パーセント、黒人10パーセント、アジア系3パーセントの順に多いが、他の大都市の例にもれずデンヴァーのストリートギャング界でも白人の存在感は微弱であり、黒茶黄の有色人種が主力となってきた。
 FBIコロラド支局によると2007年の時点で78のギャングに8811名が所属し、デンヴァーのみならず他の地域にも広がっているという。
 
 
 
 
・ギャング一覧
黒人系
・ローリン・30s
 ・トレ・トレ・クリップス
  ・エリート・エイト
・(イーストサイド)クレンショウ・マフィア・ギャング(CMG)・パークヒル・ブラッズ
・リンカーン・パーク・パイル(サンディエゴのリンカーン・パーク・ブラッズとは無関係と思われる)
・サウスサイド・クルー
・16th・ストリート・ブラッズ

ヒスパニック系

・ノースサイド・マフィア(NSM、ややノルテニョスより)

・(イーストサイド)オールディーズ・13
・チクイ・30s(chiquiは「ちび」の意)
西
・ギャラント・ナイツ・インセーン(GKI、ノルテニョス系)
・(ウエストサイド)27・クレンショウ・マフィア・ギャング・ブラッズ(上記e/s CMGより派生したヒスパニック系のセット)
・インカ・ボーイズ(消滅か?)
 この他に18th・ストリートやヴァリオ・グランデ・ヴィスタ/VGVなども活動している。

・タギング・クルー
TKO
RTD
SWS
WK
EMS

・アジア系
アジアン・プライド
ヴェト・プライド・ギャングスターズ
 
 
 
 
 
・黒人系
・クリップスの「侵略」
 1980年代のデンヴァーには、独自勢力としてイーストサイド・ポッパーズ、アンタッチャブルズ、パークヒル・ボーイズなどがいたが、いずれも重犯罪に携わるグループではなかった。デンヴァー最悪のフッドと考えられていたファイブ・ポインツですら、LAやシカゴの人間からすると「ビッグ・イージー」でしかなかったのである。
 よって今日につながる本格的なストリートギャングの歴史は、1980年代中盤にLAから移住してきたマイケル・「サイク」・アズベリー、フィリップ・ジェファーソン、そしてアルバート・ジョーンズの3人の少年たちによって始まる。

 彼らは母親がLAのギャングを嫌ったためにデンヴァ―に引っ越して来ることになったのだが、次第にイーストサイドのイースト・30th・アヴェニューとギルピン・ストリートの曲がり角をたまり場として地元の人間とつるみ始め、ローリン・30s・クリップスを結成することになる。
(悪名高いローリン・30s・ハーレム・クリップスとの直接のつながりはないという)。

 ローリン・30sは勢力を順調に拡大し、1987年に80名ほどの戦力がそろった時点でアンタッチャブルズと抗争しこれに勝利、残党を吸収する形で一気に120名に膨らんだ。その後パークヒル・ボーイズとも戦端を開くが、シティ・パークでの乱闘は警察に阻止され、「LAギャングのコロラド侵略」としてメディアの注目を浴びてしまう。
 
 
 このころにはデンヴァーの可能性を見込んだLAクリップスメンバーが多くの支部を設立し始めており、また一方ではクレンショウ・マフィア・ギャング・ブラッズがパークヒル・ボーイズを転向させて、デンヴァーでは貴重なブラッズ優位のフッドを北東デンヴァーに獲得していた。
 1989年時点では市全体で600~700人のギャングが存在し、そのうち200~250人がカリフォルニアからの移住者であると警察は推定している。

 こうした中で、増え続けるギャング・ワナビーに対して、アズベリーは若年メンバーの訓練ギャングとしてトレ・トレ・クリップスを組織し、ここでうまくいったものだけをローリン・30s本体に加入させるようにした(また似たような話になるが、ミネアポリスのトレ・トレ(33)・クリップスとのつながりはやはりないという)。
 アズベリーの甥のジンティアー・ハワードも33・クリップスのメンバーになり、左腕に33の刺青を入れ「リトル・サイク」の異名をとるほどになった。彼は1994年にわずか13歳で敵クリップを襲撃している。
  
 こうしてデンヴァーのクリップス/ブラッズは順調に成長、1993年には「サマー・オブ・ヴァイオレンス」と呼ばれるほどギャング抗争が過激化して、殺人数は74件を記録し、多くの年少者が抗争の巻き添えにあった。
 
 
・エリート・エイト
 33・クリップスは2002年の時点で247名を持つローリン・30s最大のセットであり、その分派エリート・エイトは、おそらくは1990年代後半から2000年代前半の時期に、イーストサイドのクラック・コカイン取引を牛耳ろうとして結成された。
 このエリート・エイトは2007年に、デンヴァー・ブロンコスのダレント・ウイリアムスをハマー・リムジンの中で銃殺している。またメンバーのブライアン・ケネス・ヒックスは150キロを超えるコカインをメキシコのディーラーから買い付けて、100万ドル以上の利益を上げていたという。
 
 
 2008年マイケル・アズベリーがオーロラ市で殺害される。
 アズベリーは1990年代に麻薬がらみの罪で服役してからは、LAに戻って反ギャングの福祉団体で働き始めていた。彼は刑務所と娑婆を行き来する人生を送る一方で、刑務所内でブラッズと対話し、ギャング抗争を収めようと尽力したというが、最後まで裏社会から抜け出すことは出来なかったようである(彼の詳細についてはwestword.comの記事を参照してほしい)。
 このころにはアズベリーの甥のジンティアー・ハワードは複数の殺人の容疑者となっており、引退した警官への襲撃で50年の刑期を務めている。

 警察の調査ではアズベリー殺害は個人的な金銭がらみの怨恨の可能性が高いというが、パークヒル・ブラッズの犯行と見たエリート・エイトは、彼らのたまり場とするホリー・スクエア・ショッピング・センターに放火し全焼させている。
 
 
 2010年にはクリップスとブラッズが共同で平和を訴える行進を行った。
 しかし続く2010年代には、パークヒル・ブラッズとイーストサイド・クリップスはラテン系移民の増加によってターフを脅かされていると感じ、その危機感がクリップス対イーストサイド・オールディーズ・13などの新たな抗争の原因となっている。

 2014年には31件中10件がギャングがらみであり、翌年の2015年にはラッパーのKevie “KL Tha General” Durhamの殺害から始まった一連の事件で15名が犠牲になっている。
 
 
 2011年デンヴァーはその45代目の市長に1969年生まれの黒人男性マイケル・ハンコックを選出する。
 彼はマイケル・アズベリーと同じ年に生まれ、同じく北東デンヴァーの貧困家庭で育ち、また互いによく知る友人同士でもあった。
 ギャング問題にかかわり2人をよく知るレオン・ケリー牧師は2人の人生を照らし合わせ、いかに小さな選択が人生を変えるか、いかにギャングが人生を滅ぼすかを青少年に説いているという。
 
 
  そのほかにコロラドでは、シカゴのギャングスター・ディサイプルズも中規模の麻薬組織として活動しており、2014年に24名が逮捕されている。またアンタッチャブルズも地道に活動し、2010年にはメキシコでの麻薬買い付けのために資金50万ドルを用意していたのをFBIにかぎつけられている。
 
 最後に余談だが、アニメのサウスパークはコロラドの架空の都市を舞台としており、主人公たちがデンヴァーのクリップスに入るエピソード「Krazy Kripples」が存在する。またナショナル・ジオグラフィックの番組Drugs Incは「Rocky Mountain High」の名でパークヒル・ブラッズを特集している。
 
 
 
「黒人系ストリートギャング」参考文献
https://en.wikipedia.org/wiki/Gang_activity_in_Denver
トレ・トレ・クリップス
https://unitedgangs.com/rollin-30s-tre-tre-crips/
81st・イーストサイド・ハスラー・クリップス
https://unitedgangs.com/81st-street-east-side-hustler-crips/
クレンショウ・マフィア・ギャング
https://unitedgangs.com/crenshaw-mafia-gang/
クリップスの移住についての記事
http://articles.latimes.com/1987-04-03/news/mn-2415_1_los-angeles-gang-members
「ビッグ・イージー」
http://articles.chicagotribune.com/1989-01-31/news/8903010719_1_gang-members-crips-gang-violence
1986年に逮捕されたローリン・30s・クリップスのメンバー69名の23年後の追跡調査
http://www.denverpost.com/2009/06/13/denvers-original-gangsters-1986-rolling-30-crips/
ローリン・30s創設者アズベリーとギャングの第二世代たちの更生への苦闘
デンヴァーのギャング創生期についても触れられている
http://www.westword.com/news/the-transformers-5091740
サマー・オブ・ヴァイオレンス
http://blogs.denverpost.com/library/2012/06/28/denvers-1993-summer-violence/2074/
リンカーン・パークはブラッズかパイルか
https://thehoodup.com/board/viewtopic.php?f=1&t=24281
ブライアン・ケネス・ヒックス
http://www.denverpost.com/2008/10/20/feds-cocaine-kingpin-in-denver-got-start-in-teens/
エリート・エイト
http://www.denverpost.com/2007/07/18/elite-gang-brutal-goals/
クレンショウ・マフィア・ギャングの少女殺害についての記事
http://www.westword.com/news/the-gangs-all-here-5057632
北東デンヴァーで新たな抗争
http://www.denverpost.com/2015/05/02/surging-gang-violence-in-northeast-denver-neighborhood-has-residents-on-high-alert/
ギャング戦争に立ち向かう警察
http://www.denverpost.com/2015/07/04/denver-police-navigate-guns-street-names-victims-to-quell-gang-war/
幼児死亡事件について、テランス・ロバーツのことなど
https://www.thedailybeast.com/they-made-this-dead-toddler-disappear
改悛した元パークヒル・ブラッズのテランス・ロバーツについて
http://www.5280.com/terranceroberts/
ギャングスター・ディサイプルズが摘発
https://www.ice.gov/news/releases/2-denver-area-drug-trafficking-organizations-dismantled-metro-gang-task-force
ピース・マーチ
http://www.denverpost.com/2010/07/31/denver-bloods-crips-unite-in-peace-march/
ギャングの新世代について
http://www.denverpost.com/2007/01/19/gang-heirs-drive-reckless-rise-to-power/
2人のマイケル
http://www.denverpost.com/2011/07/16/a-tale-of-two-michaels-one-was-elected-denvers-mayor-and-the-other-founded-a-violent-gang/
FBIが2011年の報告書であなたから隠したがっていること-アンタッチャブルズについて触れている
https://publicintelligence.net/what-the-fbi-wants-to-hide-from-you-in-their-2011-gang-threat-assessment/
 
 
 
 
 
・ラテン系
 デンヴァーのラテン系ギャング自体は、歴史をさかのぼると1940年代から存在し、2001年には20のギャングに1700人がいると推定されている。ドラッグ・ターフを仕切るギャングとして大っぴらに暴力沙汰を起こしてきた彼らのほかに、ハリスコ・カルテルの細胞組織も密かに活動している。
 
 
・ノースサイド・マフィア(NSM)
 デンヴァーでは1980年代に入ると、建設ラッシュによる労働者需要に引き寄せられたヒスパニック系移民が急増し、北西部のイタリア人街に固まって住むようになっていく。
 地元発祥の弱小ギャングがひしめき合う中でマイク・トレスコがノースサイド・モハドスを結成し、1987年にノースサイド・マフィアと改名、後に弟のゲイブ・「トレ・ドッグ」やフランシスコ・ギャラードも加わった。

 NSMは勢力を増していく中で後述のインカ・ボーイズと抗争し、1992年にトレスコが銃撃されている。興隆する麻薬取引で資金を蓄え、1993年にはメンバーを500人まで増やしていたという。
 急速に膨らんだ彼らは、密告者の問題に悩まされつつも、麻薬と銃器取引においてより大規模なコネクションを持つクリップスやサレーニョスとターフを巡って抗争し始めていく。
 おそらくは1998年に、青をシンボルカラーとする両者に対抗するために赤をシンボルカラーとして選んだ、もしくはノルテニョスと関係を持ったと思われるが、いずれにせよNSMは生き残り、ターフの防衛と次世代のメンバーを勝ち取ることに成功している。

 2010年の時点でNSMメンバーの「レヴ」は2000名のメンバーがいると公言しているが、そのまま鵜呑みにするのは困難な数字であり、コアメンバー100名近辺にアソシエイト数百人あたりが適当と思われる。
 彼らは北デンヴァーのハイランドやジェファーソン地区を根城とし、また敵ギャングによる蔑称「ノースサイド・モンキーズ」を逆手に取りゴリラ/ゲリラ・マフィアを名乗り、ゴリラの刺青を入れるメンバーもいる。
 
 
 ノースサイド・マフィアについては、2010年にヒストリーチャンネルのギャングランドにて特集「Mile High Killers」が作られている。
 しかしながらこのドキュメンタリーは、制作に協力した元NSMで1993年からの反ギャング活動家フランシスコ・ギャラードによって「まったくの嘘だ」と非難されている。また上記のゴリラ・ロゴの刺青も本来はギャング関係のものではなく、グラフィティ・アーティストの互助団体ゲリラ・ガーデンに所属する「Jolt」の作品であったために、ヒストリーチャンネルは後に彼に謝罪しエピソードの再放送を自粛している。
 2013年には作中の「スライ・ドッグ」とみられるスティーブン・ぺレスが刺殺されている。
 
 
 
・GKI
 ジミー、マイケル、ティミーのヴァランズエラ兄弟が設立したギャングスタズ・キリング・インカズ(GKI)は、その名が示す通り、サウスウエストのインカ・ストリートを根城とするネイティブ系優勢のインカ・ボーイズに対抗するための組織であった。
 その後インカ・ボーイズがジェントリフィケーションによって消滅したために、GKIの略称で通っていたギャング名はギャラント・ナイツ・インセーン、もしくはギャングスターズ・キラーズ・インコーポレーテッドなどを意味するようになっていく。
 GKIは紫をシンボルカラーとして、複数の州にまたがって900人近いメンバーを持つと言われており、FBI長官ロバート・ミュエラーが2006年に行った講演では「デンヴァーで最も有力なギャングの一つ」として言及されている。
 
 2012年には情報提供者のデメトリアス・「グランジ」・トルヒーヨがオリジナルメンバーの一人であるクリストファー・ガルデューノを殺害している。
 
 
 
 そのほかにコマース・シティ・ホームルール自治体(Home Rule Municipality)では、ウエストサイド・ボーラーズの父親とクリップスの母親がわずか4歳の我が子の所属ギャングを巡って争いあうという事件も起きている。このボーラーズについての詳細は不明だが、少なくとも1995年から存在するギャングのようである。
 
 
 
「ラテン系ストリートギャング」参考文献
2001年に書かれたNSMのメンバーフランク・ロンティンの物語
彼はエチオピア移民の店で強盗を働いたあと、逃亡中に18th・ストリートのメンバーに襲撃された
http://www.westword.com/news/this-thugs-life-5068373
スライ・ドッグ殺害
http://www.westword.com/news/is-steven-perez-fatal-stabbing-victim-north-side-mafia-gang-member-sly-dog-26-5840225
ヴァランズエラ兄弟が殺人を指示したとして起訴される
http://www.westword.com/news/see-6-members-of-gallant-knights-insane-gang-indicted-for-murder-bid-and-more-6586894
インカ・ボーイズとつるんでいた「ジョセフ」の物語
http://www.tcjstudent.org/unbelievable-night/
「フッドの死(death of a hood)」
http://www.streetgangs.com/billboard/viewtopic.php?t=41396
ミュエラーの講演
https://archives.fbi.gov/archives/news/speeches/the-art-of-information
トルヒーヨがガルデューノを殺害
http://www.denverpost.com/2015/04/20/colorado-gang-slaying-by-atf-informant-shows-perils-of-informant-use/
Robert J. Duranの「Gang Life in Two Cities」の書評
https://history.denverlibrary.org/news/history-latino-gangs-denver

ボーラーズの夫がクリップスの妻を殴打
http://www.thedenverchannel.com/news/parents-fight-over-which-gang-toddler-should-join
ボーラーズについての言及
https://www.leagle.com/decision/1999104054fsupp2d9861922

MS-13
http://edition.cnn.com/2009/CRIME/02/24/colorado.gang.indictments/index.html
ハリスコ・カルテル
https://www.thedailybeast.com/denvers-heroin-pizza-delivery-system
ギャングランドのNSM特集についての掲示板スレッド
http://www.topix.com/forum/denver/TAU3KSNNTVIN7HVF0
 
 
 
 
 
・タギング・クルー
・タグバンガーの誕生
 自己あるいは集団の存在をスプレー・ペイントによって誇示する「タギング」の歴史は戦前までさかのぼることができ、ストリートギャングが盛んに行うようになったのは1950年代のグリーザー時代のことではあるが、しかし現在まで続くタギング/グラフィティ文化は1970年代のNYで確立し、ヒップホップとともに世界中に広まっていったものである。
 
 タギング・クルーの目的は芸術であり、そのため彼らはギャングと異なり多様な民族の老若男女の受け入れを拒んではいない。最下層のポーザーや「トイ」から頂点のキングにまで上り詰めるためにはただ技術の研鑽のみが要求され、その点でも縄張りを示すストリートギャングの単純なタギングとは一線を画している。

 しかしながら彼らはそのタギングの性質により、暴力によってギャングから身を守らなければならない場面も多かった。
 LAなどでは従来のストリートギャングへの加入を強いられることも多く、これに対抗するためにKAM(クレイジー・アス・メキシカンズ)などのクルーがストリートギャング化していった。
 こうして誕生した「タグバンガー」は、往々にして低いスキルでヒット(タギング)を繰り返すだけの存在であり、タギング・クルーの中には彼らを疎ましく思う者も多かった。
 
 一方警察は公共物の資産的価値を著しく損なうタギングを重犯罪への入り口とみており、器物損壊のタギングがスプレー・ペイントの窃盗につながり、やがてクルー同士の争いへとエスカレートする可能性を案じていた。
 
 
・デンヴァーにて
 デンヴァーのグラフィティ・シーンはNYに遅れること20年近い1990年代初頭に栄えることになったが、それを埋め合わせるかのように創造性にあふれており、ライターは8th&ガラペド・ストリートなどを舞台に活躍していった。またデンヴァーは比較的グラフィティに甘く、LAのライターも多く惹きつけてきた。

 1991年にSHEWPらによって結成され、10の州に80名のメンバーを持つRTD(レベルズ・ティル・デス)、LAでTOOMERが1990年代中盤に結成したTKO(トゥルー・キングス・オンリー)のデンヴァー支部、そしてSWSがトップ3のクルーである。
 そのほかにもDMCA、R86などの他にホラー・コア/ジャガロ系のエングルウッズ・ウィッケデスト・ジャガロズ、磁気パネルのみを狙うマグネット・マフィアなどが存在し、2008年には警察のグラフィティ対策班によって121ものクルーが報告されている。
 クルー名は基本的にアルファベット3文字からなるが、その意味はころころ変わるので正確な補足は困難である。
 
 
 
・TKO
 上記三大クルーの一角TKOは、北米中心にメキシコやヨーロッパにまで支部を持ち、1000名近いメンバーを持つと言われる巨大クルーである。そのデンヴァー支部では、2000年に加入したKOZEが、工場の壁一面を覆う20フィート大のグラフィティの作成に成功して2004年にリーダーとなると、クルーの人数は約4倍に増加した。
 
 TKOはギャングやライバル・クルーによるクロス・アウトやスタイル盗作、さらには暴行にまで対処するための「ヘッド・クラッカー」と呼ばれるメンバーを持ち、高名なアーティストCRIMSもその役を務めている。
 CRIMSはまたサレーニョスのメンバーでもあるために、ギャングとタガーの違いについてはことに敏感であり、TKOの刑務所への拡張計画に反対していた。
 
 LAにおいても粗暴な存在のTKOは、2007年にはライバル・クルーであるMTA(メトロ・トランシット・アサシンズ)の主催するアート・ショウにチェーンや斧で武装して殴り込み、女性メンバーのキャンディ・スリチャンドルがアンソニー・セナを殺害している。彼女はその後逃亡生活中にコロラドに隠れていたこともあったという。
 スリチャンドルは「America’s Most Wanted」でも取り上げられている。
 
 
 このようにTKOはその巨大化と共に、グラフィティ護持に対する強硬な態度をもデンヴァーのシーンに持ち込んだ。そのため警察のグラフィティ対策班は20代後半のベテランが多い彼らをクルーではなくギャングとみなし、重点的に捜査していく。
 その結果2009年にクルーの多くが逮捕される。KOZEはかつて共に活動したライターの密告により捕まり、罰金1300ドルと執行猶予付きの実刑判決を受けている。
 
 
 
・タギング戦争
 21世紀に入ってからますますその勢いを加速させ、デンヴァー全市に広がったタギング・クルーだが、最も警察から注目されていたのはラテン系のクルーであった。
 クルーの大半が未成年であり、警察のブラックリストに載っておらず、旧来のストリートギャングの不文律も知らないために、より危険な存在となる可能性があったからである。

 その懸念を裏付けるかのように、最も暴力的な抗争は、ラテン系の勢力の強い南西デンヴァーで起こった。
 2006年にWK(ワールド・クラス/レッキング・クルー)とEMS(エンヴィ・マイ・スタイル/イーブル・マインデッド・ソルジャーズ)の2つのラテン系クルーの間で起こった争いがそれである。
 両者ともにストリートギャングとのつながりを持ち、以前から数々の犯罪事件を起こしていた。
 
 
 前者のWKはサミー・「マリス」・ゴメスを含む11人によって結成され推定120名のメンバーを持つ組織であった。
 ゴメスは1990年生まれの少年ながら、2005年にガーフィールド・パークでEMSメンバーを刺し、この時は訴えが取り下げられたものの、1年後の夏にテースト・オブ・コロラド・フェスティヴァルにてやはりEMSメンバーを刺し、今度は殺人未遂の罪に問われている。
 WKはまたパーティでの銃撃などを行っている。
 
 
 一方のEMSは1990年代後半に少年タギング・クルーとして始まり、2006年当時はデンヴァーとレイクウッドの市境で200名近いメンバーを持っていたという。やはりWKメンバーの家への銃撃などを行っている。

 2006年12月にはEMSのデヴィッド・ミエラがショットガンでジョナサン・「ローマン」・マクラガンを誤射して殺害し、後に終身刑を宣告されている。実際には他のタガー「MOKE」を狙ったという。

 EMSはその後よりギャングに近づいたようで、2009年には麻薬と銃器の不法所持でリーダーのアイザイア・ルナスを含む8名が逮捕されている
 
 
 こうして一度は収まったかに見えたグラフィティ・ヴァイオレンスではあるが、数年後には再燃。2012年にはライター1人が殺害され、2013年には3件の銃撃事件が起きている。
 新興勢力NOS(ネヴァー・アウト・スタイルド)やKHT、RSKなどはショベル、防犯スプレーで争いあい、またベトナム系のメンバーを含むKTRは強盗や車泥棒に手を出している。
 
 
 
・タギング用語集
オール・シティ:町中に作品が見られる有名なタガー
トイ:未熟なタガー
UC・クルー:アンダーカバー・クルー。秘密裏にクルーに所属するもの
ヒーロー:タギングをやめさせようとするもの
ラック:店の「ラック」からの万引きや窃盗
スロウ・アップ:別の色の外枠で囲まれたバブル・レター
ヘブン:危険な高所にあるがタギングには向いた場所
バフ:グラフィティを消すこと
バイト・オフ:スタイルの盗作
ヒット:タギング
 
 
 
「タグバンガー」参考文献
リチャード・ヴァルデマーによるタグバンガーの解説。タガー用語集もあり
http://www.policemag.com/blog/gangs/story/2008/12/taggers-tagger-crews-and-tag-bangers.aspx
デンヴァーのグラフィティ・シーン黎明期から活躍するRTD・クルーのEMITへのインタビュー
https://fellowmagazine.com/blogs/journal/74366723-denvers-urban-art-emit
デンヴァー・グラフィティ戦争
http://www.denverpost.com/2007/02/10/denver-graffiti-war-between-tagging-crews-and-gangs-sparks-violence/
「タギング・アップ・デンヴァー」TKOのKOZE、バフ・クルー、EMSのERA、SWSのGATES、R86、DFの創設者でもあるEMITなどについての話
http://www.westword.com/news/tagging-up-denver-5093981
グラフィティ・ヴァイオレンスの再燃
http://www.denverpost.com/2013/03/10/denver-police-see-more-graffiti-violence/
ミエラに終身刑
http://www.westword.com/news/graffiti-tagger-david-miera-sentenced-to-life-in-prison-for-2006-shooting-death-5879477
デンヴァー最悪のグラフィティ・クルー名トップ10
http://www.westword.com/news/top-ten-worst-denver-graffiti-crew-names-5861983
麻薬と銃器の不法所持でEMSの8名を逮捕
http://royalespot.blogspot.jp/2009/03/eight-members-of-evil-minded-soldiers.html
「巨大テントが撤去される」タギングについて少し触れている
http://www.westword.com/news/the-peak-is-forced-to-pull-up-its-tent-stakes-on-block-162-5101174
逮捕されたTKOのKOZEの作品を懐かしむ
http://www.westword.com/news/graffiti-photo-flashback-the-reign-of-the-tko-crews-koze-5872435
KTRの6名が逮捕
Tagging crew ‘KTR’ indicted in string of robberies from Broomfield to Springs

コロラドのドープなグラフィティ・ライターその1
https://www.iamdent.com/single-post/2015/06/05/Writing-Our-Name-Doin-Graffiti-on-the-Wall-Colorado-Styles-DOPE-Writers-in-Denver-you-need-to-know-about-Part1-IamDENT-GraffitiMakestheWorldLookNice
グラフィティに関する15の神話
http://www.illadelink.com/15-graffiti-myths-debunked/
KOZEの逮捕
http://www.westword.com/news/the-writings-on-the-wall-for-koze-a-graffiti-vandal-who-thought-hed-never-be-caught-5105924
タガーとギャングの境目
http://www.denverpost.com/2013/03/11/lines-blurring-between-denver-graffiti-tagging-crews-and-gangs/
グラフィティを大まかに5種類に分類している。
https://www.cml.org/thurs_graffiti_pedigo.pdf
スリチャンドラについての記事一覧
http://www.westword.com/news/jel-was-here-5099845
http://senseslost.com/2007/11/02/tko-stripper-on-the-run/
http://senseslost.com/2008/03/24/tko-graffiti-artist-arrested/
https://www.bombingscience.com/graffitiforum/threads/americas-most-wanted.3822/
スリチャンドラ事件の詳細
http://caselaw.findlaw.com/ca-court-of-appeal/1574817.html
 
 
 
 
 
・白人系
・プリズンギャング
 歴史的にギャングはマイノリティーが主として差別からの自衛を口実として徒党を組んだ存在であり、そのため被差別機会の少ない白人の犯罪者は、アイルランド系を典型例として、マジョリティに近づけば近づくほど、巨大な組織を作らない傾向があった。
 しかし20世紀後半に刑務所で有色人種が優勢となった結果、白人はマイノリティーへと転落し、白人の自衛と人種戦争を公言するプリズンギャングが生まれることとなった。

 21世紀にはコロラドの刑務所人口は常に2万人以上の刑務所人口を保ってきており、2010年の調査では白人44パーセント、ラテン系33パーセント、黒人18パーセントの順に多かった。
 またコロラドは、有名な最高警備の刑務所「スーパーマックス・プリズン」であるADX・フローレンスを抱えている。
 
 
・211・クルー
 コロラド最大の白人ギャングである211・クルーは、強盗ベンジャミン・デイヴィスが1995年にデンヴァーの郡刑務所で人種間の争いのために殴打された後に、白人囚人の自衛のためにダニー・シェアとともに結成した。
 組織名はカリフォルニア州法の強盗条項211条から取られたが、黒人ギャングを思わせるその名とは裏腹に、ネオナチ/ホワイトパワー文化を組織に取り入れ、言葉遊びで211=BAA(ブラザーフッド・オブ・アーリアン・レジスタンス)と称されることもある。
 
 
 麻薬中毒の両親を持ち、自らも青少年期から麻薬にどっぷりとはまってきたデイヴィスにとって、単調な刑務所生活に耐えるためには麻薬は必要不可欠なものであり、211の主なしのぎも他のプリズンギャングと同じようにやはり麻薬となっていった。

 デイヴィスは仲間の一人への手紙に「刑務所内での尊敬を勝ち取るために殺し屋を探している」と書いており、実際に211・クルーに、1982年に警官殺しで捕まったヴァーノン・テンプルマン、1995年17歳で女性2人を殺害したレイモンド・カインなどを迎え入れている。また1997年にはメンバーのジェレマイア・バーナムがネオナチの男と共謀してアフリカ系移民を殺害、後の2012年に彼自身も警官によって射殺されている。

 こうした面々によって支えられた武闘路線、そして人種交流に対する厳格な規律が功を奏して、211は刑務所内外で300人のメンバーを持つまでに膨らんだ。
 当然ベンジャミン・デイヴィスはリーダーとして当局に目をつけられ、2007年に組織犯罪取締法に違反したかどで108年の刑期を宣告されている。
 
 
・クレメンツ殺害
 デイヴィスを筆頭に211には凶悪犯罪を犯した長期受刑者が多いが、その中でも最も悪名をとどろかせたのが「イーブル」エヴァン・エベルであった。
 裕福な弁護士の家庭に生まれながら暴力的な気性を持っていた彼は、2003年に複数の強盗で有罪となり、入った先の刑務所で211と出会っている。その後彼の刑期は2008年に看守を殴った罪で4年延ばされているが、その間獄中にて意見の相違でデイヴィスの不興を買ってしまい、名誉挽回のための何らかの機会をうかがっていた。
 
 2013年にはエベルはドミノ・ピザの従業員を殺害してユニフォームを奪い、それを着て油断した刑務所長トム・クレメンツを殺害する。彼はその後テキサス警察によって殺害されている。
 この事件は211内部の人間にとっても予想外の出来事だったようで、211メンバーの一人ジェームズ・ロアは、エベルは狂っており、この殺人によって211に無用の注目を集めたとして彼を非難し、組織の関与を否定している。
 
 その後コロラド刑務所当局は、211の力をそぐために州外の刑務所との受刑者交換プログラムによって、そのメンバーを州幹線道路沿いの刑務所に散らしたが、かえって211が勢力を拡大させる危険を招くこととなった。

 ベンジャミン・デイヴィスは2017年にワイオミングの州刑務所で自殺している。
 しかし彼の死はむしろ211創設者としての彼を永遠にしたととらえるものもおり、211の勢力がこれで弱まることはないと考えられている。
 
 
 
 その他白人系では、1966年にブルース・リチャードソンによって設立されたサンズ・オブ・サイレンスが1970年代前半にレオナルド・ロイド・リードに引き継がれ、その後20年以上彼の下で勢力を拡張してきた。
 
 
  
「白人プリズンギャング」参考文献
211・クルー
https://en.wikipedia.org/wiki/211_Crew
211のタイムライン、主要メンバー、その文化について
http://www.denverpost.com/2013/03/26/211-crew-prison-gangs-violent-culture-roils-behind-beyond-bars/
リチャード・ヴァルデマーによる211についての記事
http://www.policemag.com/blog/gangs/story/2013/03/evil-evan-ebel-and-the-211-crew.aspx
「レイプ被害を訴えた受刑者が当局に「ドラマ・クイーン」と侮辱される」刑務所内での211の横行について書いてある
http://www.westword.com/news/raped-and-extorted-by-a-prison-gang-scott-howard-was-called-a-drama-queen-by-corrections-officials-5111568
コロラド刑務所の各統計数字
https://www.prisonpolicy.org/profiles/CO.html
2005年の逮捕について
http://www.geocities.ws/jiggy2000_us/ab-colorado.html
国中に散らされる211・クルーのリーダーたち
http://www.denverpost.com/2017/09/07/colorado-211-crew-leaders-across-country/
エベルとデイヴィスの死によりクレメンツ事件は迷宮入りに
http://www.westword.com/news/211-gang-leader-benjamin-davis-suicide-impact-on-evan-ebel-tom-clements-murder-mystery-9419949
 
 
 
 
 
・アジア系
 カリフォルニアで結成され1990年代初頭にデンヴァーに支部が作られたヴェト・プライド・ギャングスターズ(VPG)とそのライバルであるアジアン・プライドがMDMAに卸し売りのレベルで携わっていた。
 VPGは2003年に23名が起訴されており、一方アジアン・プライドは2008年にメンバー23名が週に最大で1万個ものエクスタシー錠剤をブルームフィールド市の若年層中心に売りさばいていたとして逮捕されている。
 この時に逮捕され有罪となり、4年少しの服役を強いられたシリル・キムはその後「Rookadamus」の名義でラッパーとして活動していたが、2015年のクリスマスにオーロラ市で銃殺されている。
 
 
 
「アジア系ストリートギャング」参考文献
ヴェト・プライド・ギャングスターズ
https://www.dea.gov/pubs/states/newsrel/2003/denver062603.html
2008年のアジアン・プライドの逮捕
http://www.dailycamera.com/ci_13100646
シリル・キムの殺害
http://www.aurorasentinel.com/news/former-asian-pride-gang-member-identified-as-victim-of-christmas-day-shooting-in-aurora/

司法省によるコロラドのドラッグ事情
https://www.justice.gov/archive/ndic/pubs7/7691/index.htm
「GANGS IN DENVER CO」デンヴァーのギャング一覧
https://thehoodup.com/board/viewtopic.php?f=23&t=72989
プリズン・カルチャー・コロラド
http://slideplayer.com/slide/8099245/

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